「3K」は過去のもの。建設業界のリアルをのぞく。

――新進建設株式会社さんへの取材から見えた、建設業界の本質とは? ――

私たちが日々使っている道路や橋、学校や病院。それらを「つくる」人たちの姿を、どれだけ知っているでしょうか?

建設業界と聞くと、「きつい・汚い・危険」といった3Kのイメージが浮かぶかもしれません。しかし、実際は、イメージと少し違う“リアル”があります。

今回取材したのは、高知市に本社を構える新進建設株式会社さん。建築部の白川さんと土木部の松岡さんに、現場の仕事、変わりゆく働き方、そして建設業の魅力についてお話を伺いました。
毎日、所長として現場を動かしているお二人の言葉から見えてきたのは、かつての「建設業=大変」ではない、奥深さとやりがい、そして変わりつつある現場の姿でした。



「動く」のではなく「動かす」仕事

建設業界にはさまざまな役割が存在しますが、その中で新進建設さんが担っているのは「施工管理」という役割です。

白川さん(建築):「施工管理って、実は“自分がつくる”仕事じゃないんですよね。どちらかというと“どうすればスムーズにみんなが動けるか”を考える仕事です」

松岡さん(土木):「僕らが直接手を動かすのではなく、段取りを整えて、職人さんや協力業者さんが安心して作業できる環境をつくる。それが施工管理の役割ですね。段取り次第で現場がうまく回るかどうかが決まるってくらい、計画性と調整力が問われる仕事です」

つまり、「自分がつくる」のではなく「つくってもらうために動く」マネジメントを行う仕事なのです。作業が安全に、効率よく進むように、段取りやスケジュールを緻密に組み立てる、現場を“回す”力が求められる仕事です。


「昔は当たり前」だった働き方、今は違う

松岡さん:「僕よりもひと世代上の先輩たちは“夜11時まで現場にいる”“土日も出勤”っていう働き方が当たり前だったみたいです」



かつての建設業界は、「朝は早く、夜は遅い」「休みが少なく、現場が稼働している時は土日関係なく出勤」という働き方が一般的で、体力と根性がなければ続かないというイメージが定着していました。

白川さん:「“それが当たり前”っていう空気が長年あったんですよね。でも、ここ10年くらいで“このままじゃ若い人が続かない”って声が徐々に上がり始めて、働き方を見直す動きが本格化した感じです」

松岡さん:「昔だったら3日かけていた測量が、今じゃドローンとタブレットで1〜2時間。休みが増えて、働きやすくなった実感はありますね」

こうした取り組みの成果として、年間で50日近く休日が増えた現場も出てきているそうです。週40時間労働の浸透や、「土曜は休み」が当たり前の現場も増加。かつての“3K”のイメージから、より健全で持続可能な業界へと変化しています。


AIやデジタルに頼りすぎない「現場力」



デジタル化やICT導入が進む一方で、現場では「新たな課題」も見え始めているといいます。
たとえば、測量や設計をAIや自動計算ツールに任せきりにしてしまうと、現場で重要な「感覚」や「空間イメージ力」が育ちにくくなってしまうのです。

松岡さん:「たしかに、ICTやAIは便利ですけど、そればっかりに頼りすぎると、基本的な“現場感覚”が薄れてしまいます。たとえば掘削位置が1メートルずれるだけで、工事全体がやり直しになることだってあるんです」

白川さん:「数字では合っていても、実際に地面に立ってみると“あれ、思ったより狭いな”ってこともあるんです。図面と現場は違う。“見る力”と“想像力”って、簡単にAIで補えるものじゃないんですよね」

高校で習った三角関数や座標の知識が、現場で実際に使われている。そんな話も印象的でした。

松岡さん:「座標、いっぱい使いますよ!高校のときは“これ何に使うんだろう”って思ってましたけど、まさか自分の仕事で日常的に使うとは思ってなかったです」

白川さん:「あと大事なのは、“自分で疑う力”ですね。AIが出した答えでも“ほんとにそれでいいの?”って一度は立ち止まって考えるクセが必要。数字に強くなることももちろんだけど、“現場を感じる力”を忘れてはいけないと思ってます」

現代の建設業は「人がテクノロジーを使いこなす」時代。最終的に判断を下すのは、やはり現場に立つ“人の目と感性”なのです。

「女性だからできない」は、もう過去の話

白川さん:「昔は、現場に女性はほとんどいませんでしたよね」



かつては、建設業界といえば男性社会の代表的な業界だったと言います。重機や資材が並ぶ現場には、ヘルメットをかぶった男性の姿ばかりで、「女性が働く場所ではない」という無言の空気があったそうです。でも、そんな時代は、少しずつ変わり始めています。



近年、建設現場では女性の進出が徐々に進み、女性の施工管理技術者や職人さんの姿も増えてきました。ただ、業界全体で見ると、女性の数は、まだ決して多いとは言えません。


そこで重要となるのが、「受け入れる側の環境づくり」です。たとえば、女性専用の更衣室や休憩所、清潔なトイレの整備。そうした“当たり前の環境”が整うだけで、「働いてみようかな」と思える女性が着実に増えているそうです。

加えて、現場で働く男性たちの意識にも変化が出てきています。ある現場では、「女性がいた方がコミュニケーションが柔らかくなる」、「きちんと段取りを伝えてくれるから安心できる」といった声があがっており、女性の持つ丁寧さや柔らかさが、現場のコミュニケーションに良い影響をもたらしているというエピソードもありました。

もちろん、「誰にとっても働きやすい職場環境だ」と胸を張れるには、まだ道半ばです。それでも、業界として、そして新進建設としても「女性が活躍できる環境づくり」を本気で進めていることは間違いありません。

テクノロジーの活用や職場環境の整備によって、これまでの業界の常識が覆されつつある今、建設業界は、性別ではなく「適性と工夫で仕事をする」時代へと確実に変化しています。


人が育つ現場をつくる ― 技術継承と見守る力

松岡さん:「今、一番の課題はやはり“人”ですね」



建設業界では、職人、オペレーター、施工管理 ──
すべての職種で人材不足が深刻だと言います。

その背景には、リーマンショック以降の採用控えが影響しています。特に40代前後の中堅層が抜けており、いま現場を支えているベテランと、これから育つ若手の「間」が空白になってしまっています。

この空白は、単に人数の問題にとどまりません。ベテランの技術やノウハウがうまく引き継がれず、若手に伝えたいことが「伝わらない」、「任せきれない」という状況になりつつあります。

そうした声が上がる一方で、「技術の継承」は、単に手順を教えるだけではないという指摘もありました。

白川さん:「たとえば、どうすればもっと効率よく作業できるかとか、現場が円滑に回るように段取りを組む工夫とか。そういう“センス”も含めて、現場でしか学べないことがたくさんあるんですよね。」


これらは一朝一夕で身につくものではなく、現場経験と適切な指導を通じて、時間をかけて培われていくものです。

白川さん:「だからこそ、若手に“任せる”ことが大事なんです」

そう話す彼が強調したのは、任せ方の工夫でした。

「ただ仕事を振るんじゃなくて、“なぜこれをやるのか”という目的をしっかりと伝える。ゴールを示してから任せる。そして、やり終わるまではなるべく口を出さずに見守る。でも、目は離さない」

それが今の若手育成において、欠かせない姿勢なのだと言います。

実際、私たち若い世代は「ただ指示通りに動くだけ」でなく、「その作業の意味」や「全体の流れ」を知ることに価値を感じています。言われたからやる、ではなく、納得したうえで動きたいという傾向が強いからこそ、コミュニケーションの取り方一つひとつに工夫しなければいけないと感じているそうです。

こうした若手の成長を支えるために、新進建設さんでは、未経験者でも挑戦できる教育体制を整えています。中途採用が多いこともあり、現場にはさまざまなバックグラウンドを持つ人たちが集まっています。

白川さん:「だからこそ、基礎教育には力を入れています。一人ひとりの性格や特性を見ながらアプローチを考えたり、教え上手な先輩の現場に配属したり。また、現場ごとに工法や注意する箇所も異なるので、なぜこの作業をするのか?腹落ちしやすい説明を心掛けています。」

そんな工夫が、育成環境の随所に見られました。

建設業の魅力は何といっても、「カタチに残る仕事」であること。

松岡さん:「橋や建物が出来上がっていくのを目の前で見られる。その中に、自分が担った一部があるって、ものすごく大きな達成感なんですよ」

──簡単な仕事じゃない。体力も責任感も求められる上、一人前になるには相当な時間がかかります。それでも、誰かの生活を支え、必要とされる仕事であることに、お二人は誇りを感じていました。


最後に:この業界「いいかも」と思うあなたへ

正直、私自身も取材前は「建設業って体力勝負で、男の世界で…」なんて勝手なイメージを抱いていました。けれど実際に現場で働くお二人のお話を聞いてみると、そのイメージはガラッと変わりました。

白川さん:「建設業って、実は“誰かと協力して何かを成し遂げたい”って人にはすごく向いてる仕事だと思うんです」

松岡さん:「そうそう、“自分の手で社会にカタチを残す”って、想像以上にやりがいありますよ」

現場はどんどん進化しています。働き方も、人の育て方も、昔のままではありません。

確かに楽な仕事ではないけれど、今の建設業界はどんどん変わってきています。働き方も、使う技術も、人との関わり方なども昔とはまったく違い、わからないことは聞いていい。
AIに頼りすぎず、自分の頭で考えることが大事。そして、自分の手で、社会に「カタチ」を残すことができる。

「そんな仕事、ちょっとかっこいいかも」

そう思った人にこそ、ぜひ一度「現場の声」を聞いてみてほしいです。
そこには、かつての3Kより、ずっと豊かで温かい世界が待っているはずです!

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